日記

『霧越邸殺人事件』綾辻行人の反省会(ネタバレ全開)

綾辻作品と言えば館シリーズ。

ですが、館シリーズ以外も読んでみようと思い立って手に取った本作。

久しぶりの館シリーズ以外の綾辻作品となるわけですが、今回もご多分に漏れず、解決編に突入するまで犯人や動機等々全くわからなかったため、反省会として読中感、読後感を赤裸々に綴っていこうと思います。

事件のおさらい

ざっくり、事件の概要を記載します。(ここは思い出し用なのであくまでざっくり)

第1の事件(榊殺し)

霧越邸の温室で榊が殺された事件。現場のポイントは以下の通り

  • 両腕で自分の胴体を巻き込むような不自然な姿勢の死体
  • 凶器は白秋の本。頭を殴打された後、榊自身のベルトで絞殺された。
  • 童謡「雨」の見立て殺人(如雨露から滴る水/木履/白秋の本)

第2の事件(蘭殺し)

榊殺しの翌日、湖の孤島にある海獣の噴水で蘭の死体が見つかった。

  • 「雨」の2番の歌詞の見立て殺人(ただし中途半端。折鶴くらいしか合致していない)
  • 凶器は「西條八十」の本。榊同様、頭を殴打された後絞殺された。

第3の事件(深月殺し)

蘭殺しがあった日の午後、深月が殺された。

その時間、他のメンバー達は睡眠薬で眠らされていた。

  • 「雨」の3番の歌詞の見立て殺人
  • 死体は全裸にカーテンレースを巻き付けられていた。

第4の事件(甲斐殺し)

翌日、甲斐が首を吊った状態で見つかる。

  • 「雨」の4番の歌詞の見立て殺人。
  • 近くにあった雛人形が後ろ向きに倒れていた。

読中の推理

私の読中のお粗末な推理をここにさらしてみます。

着目できたポイント

第3の事件については以下2点の記述に着目することが出来ていました。

①睡眠薬の在り処・形状を知りえない人物

第3の事件(深月殺し)の際にほかのメンバーを眠らせるために、忍冬医師の持っていた睡眠薬が使われました。

その前日の晩「私(鈴藤)」と彩夏が睡眠薬を所望し、それに忍冬医師が答える形で自室から睡眠薬を持ってきてますが、その際の記述が以下の通りです。

「他に欲しい方はおられませんか」

医師はテーブルの一同を見渡した。

「んじゃ、あたしも」

と、彩夏が手を挙げた。医師は頷いて、

「他には?おられませんかな。それじゃあ、ちょっと部屋へ行って鞄を取ってきましょう」

暫くして、出ていった忍冬医師が黒い鞄を抱えて戻ってくる。入れ違いに甲斐と名望が、二人してトイレに立った。

この記述には読み進めている中で小さな違和感を感じた部分。二人がトイレに立ったという記述に対して、「そのレベルでの記述必要ある?」という感じです。ここには違和感を覚えた読者も多いのでは、と思いますが皆さんいかがでしょうか。

読み進めてみると、コーヒーに睡眠薬が入れられていたことがわかるんですが、トイレに立った二人は、睡眠薬が忍冬の鞄のがま口の入れ物の中にあること、さらには睡眠薬の形状などを知りえない。よって睡眠薬を盗むことができず、コーヒーの中に入れることはできませんでした。

そこまでの予想を立てることができましたが(結果として当たっていた)、難易度といっては簡単な部類かと思います。

②コーヒーを飲みたいと言い出したのは槍中

さらに、睡眠薬が入ったコーヒーを皆が飲んでしまうあたりの記述は以下のようになっています。

「お茶のお代わりはいかがですか」

やがて的場女史が言った。

「珈琲のほうがいいですね」

槍中が答え、テーブルの一同を見まわす。

「みんなもそうでしょう。珈琲好きの集まりですから」

「忍冬先生も、珈琲が宜しいですか」

「はいはい。私は甘けりゃ何でも結構です」

この場面を読んでいた時は何の違和感も感じませんでした。これまでも珈琲を飲む場面はあったし、ごく普通の展開かなと。のちに睡眠薬が入れられていたことがわかり、改めてこの場面を読み返した際、槍中が珈琲と言い出したことに気付きました。

上記2点については、第3の事件における核心をつくポイントではあったんですが、事件の推理的中には至りませんでした。槍中には第1の事件におけるアリバイがあるし、珈琲の流れは自然な経緯に思えたので。

甲斐・名望は犯人ではないことがわかったけど、であるならば怪しいのは彩香くらいしかいないという思想に至ってしまったほどです。

着目できなかったポイント

第2の事件における記述の核心部分は、違和感を感じつつもスルーしてしまいました。該当の記述は以下の部分です。

「ええとですね、図書室の本が一冊、傷んでるみたいなんですが、あれはいったい」

「は?」

不思議そうに応じて、的場女史は黒縁眼鏡に手を当てる。その横で槍中が、ズボンのポケットに突っ込んでいた両手を抜き出して腕組みをしながら、「ああ」と唸るような声を出した。

「それはさ、鈴藤、たぶんまた犯人が凶器に使ったんだろうね。蘭の後頭部には榊と同じような打撲傷があっただろう。同じ手口でやったのさ」

「やはりそう思いますか」

「角がへこんだりしてなかったかい」

「ええ。それから、ちょっと水を含んで濡れているような」

「間違いないと思うね」

「でも、榊君の時は、本は現場に置き去りにしてあった。なんで今回はわざわざ図書室に戻したんでしょうか」

「ふん。そいつはたぶん」

槍中は右手をしゃくれた顎に伸ばし、疎らに伸びた無精鬚を撫でた。

「『雨』の見立てにそぐわないからじゃないかな、西條八十の本じゃあ」

最後の最後、槍中のセリフに「西條八十の本じゃあ」とありますが、この時点で鈴藤は誰の本とは言ってません。それであるのに、槍中は西條八十の本であると言い当ててしまってます。金田一とかコナンとかでよく出てくる展開ですね。

確かに言われればそうなんです。至極単純、難易度低であるポイントなんですが、なぜこの場面を読んでいる際にスルーしてしまったのだろう、と読後になってみて思います。

槍中の最初のセリフ「それはさ、鈴藤~」に強烈な違和感を感じたことはよく覚えてるんです。何故そんなにさらっとしたリアクションなのかと、もっと驚きのリアクション、例えば「なぜ現場に置き去りではなく、戻されているんだ?」とかの受け答えが自然のように感じ、さらっと流しすぎでしょ!という印象を持ちました。

そのインパクトの後遺症(?)で、西條八十の本にスルーしてしまったのではなかろうかと推察しています。他の読者さんたちは、このタイミングで気づけているのでしょうかね。もしかしたら私だけミステリ読解レベルが低い感じですか。

読中の推理結論

結局、第7幕「対決」の直前まで読んで、犯人や動機などは全くわかりませんでした。唯一の予想としては、上記に挙げた着目できたポイントから、甲斐・名望は犯人ではない、槍中が怪しいがアリバイあり。消去法で行くと彩香では?くらいの結論しか出せなかったです。

解決できていない謎とその答えは以下の通りとなります。(答え部分はドラッグしてご覧ください。)

解決できていない謎読後の答え合わせ(見るにはドラッグ)
甲斐がウォークマンを電池切れと言ったのは?8月事件の容疑者の一人が甲斐。事件のニュースを皆に聞かせないため
雨に見立てたのは?死体が濡れているのをカムフラージュするため
槍中の名前に符合する物はない?カナリヤ(逆から読むと槍中)
的場の態度が軟化したのは?8名の様子を観察して、彰に伝えるため
榊の死体の恰好は?死体を動かしたことを悟られないため(死斑のでき方)
木履のケースが開いていたのは?「雨」の見立て殺人の計画が成立するかの確認のため
8月の事件、もう一人は?甲斐
蘭の死体が噴水にあったのは?甲斐が童謡「カナリヤ」に見立てて殺したから
ホールの絵の作者、的場は嘘をついた?彰の存在を隠すため嘘をついた
蘭を殴った本が西條八十の本だったのは?童謡「カナリヤ」の見立てだから
→何故、図書室に戻した?槍中が「雨」2番の歌詞の見立てとなるようにしたから
甲斐、蘭殺しの検討の際に「違う」と叫んだのは?自分が殺した状況と違うから
メシアンは何故弱り、死んだ?童謡「カナリヤ」に見立てられ、寒い外に出されたから(その後槍中によって戻される)
深月、なぜ全裸?美しいまま殺したかったので全裸にした
スプーンはなぜ曲がった?カナリヤの見立てに使用されたから(その後槍中によって戻される)
何故メシアンの死を報告?不明(些細なことでも報告する間柄か)
温室の亀裂の意味?十文字→「X」→ギリシャ語でカイ

事件の全貌

解決編を読み終えたうえで、各事件のwho/why/howを以下にまとめてみます。

第1の事件(榊殺し)

who甲斐
why8月の事件の口封じのため
how予め持ち出していた本で榊を殴打、ベルトで絞殺す。
アリバイ作りのため、図書室へ。その間死体は渡り廊下に放置。
その後死体を戸外へ出し、死体現象を遅らせる。
「雨」に見立てたのは、死体が濡れているのをカムフラージュするため。
トリック死体を寒い場所に置き、死体現象を遅らせることで死亡推定時刻を誤らせた。

第2の事件(蘭殺し)

who甲斐
why8月の事件の口封じのため
how連続童謡殺人として、「カナリヤ」に見立てて殺害。
その後、便乗殺人として深月を殺したい槍中は、「カナリヤ」の見立てを「雨」の2番の見立てに変更。
変更した理由は、「カナリヤ」が死んでしまうと自分が死んでしまうと思い込んだから。(槍中は館の超常現象を信じていた)

第3の事件(深月殺し)

who槍中
why深月の美しさを永遠のものにするため
how他のメンバーを睡眠薬で眠らせた。

第4の事件(甲斐殺し)

who槍中
why自分の保身のため(一連の事件の犯人を甲斐にするため)
how他のメンバーを睡眠薬で眠らせた。

その他

本書の特徴として「名前」がフューチャーされている点があると思います。物語の中盤で「アリバイ・動機一覧表」を槍中が作成しますが、4年後の鈴藤が、今思えばあの中に重大な暗示(予言)が隠されていたという記述があります。

そのヒントを受けて、結構長い時間その一覧表とにらめっこしたんですが、結局何が何やらという感じで、全くわかりませんでした。

正解は劇団「暗色天幕」の8人の芸名を、年上順に頭文字を取っていくと「やりなかあきさや」になり、本名を年下順に頭文字を取っていくと「やりなかあきさや」となるという暗示でした。

これ自体はただの偶然の一致なんですが、この暗号に気づけば読中の推理をもっと有利に進めることができた、いわゆる作者からのヒントみたいなもんですね。

頭文字を取るとかお尻の文字を取るとかはやってみたものの、年齢順を組み入れることができず、あと一歩のところって感じでした。

読後の感想

幻想と本格の融合

「幻想と本格の融合」は、完全改訂版の解説に用いられている用語ですが、本作品では館に何か現象(壁にかかった絵が落ちる等)が起こると、それに符合する人物が死ぬという流れがあり、これは犯人は関係なくただの偶然という位置づけになっていました。

深月が館の主人の亡くなった妻と瓜二つであることも偶然だし、8月の事件の被害者と同じ苗字の執事がいるのも偶然だし、的場女史と忍冬医師の娘の名前が一致しているのも偶然です。

勝手に館のものが壊れるのも偶然で、それに符合する名前を持つ人が亡くなっていくのも偶然です。そこに一定の意味を見出し、意味づけをするかどうかは人それぞれ。

槍中は、自分と符合するカナリヤを生かすために、「カナリヤ」の見立てをあえて「雨」の2番の見立てに変えたけど、最後カナリヤが死んだのを知らされて、自分も助からぬと思い自決に至ったんだろうと思っています。

このような偶然性をミステリに導入することには拒絶する読者も一定数いるんだろうと思いますが、個人的にはあまり拒絶反応は感じていません。結果として作品が面白くなれば全然ウェルカム、という側の立場で、本作はそこらへんが絶妙に絡み合っていて、まさに「幻想と本格が融合」した作品だったように思います。

童謡の見立て

残念だった部分として、「雨」と「カナリヤ」の童謡について。

まずそれぞれの童謡を私は聞いたことがありませんでした。本作品を読み進めている途中にYoutubeでそれぞれの童謡を聞いてみたが、どちらも初めて聞く動揺でした。

これが日本人なら誰でも知っている童謡であれば、次の歌詞は~~等、自然と推理が進んでいく形になるので少しもったいない感じがしました。

思い込み・決めつけはよくない

ミステリを読んだ後に何回も感じている所感ですが、やっぱり思い込みはよくありません。

第1の事件(榊殺し)で甲斐は、私と槍中とほぼ一晩中ずっといて榊を殺せるはずがない、さらに見立て殺人が続いているのだから、すべての事件の犯人は同一人物、このバイアスがかかったまま読んでいるので、いつまでたっても真相にたどり着けないわけです

といっても今回は、寒い中に死体をさらすと死体現象が遅くなるという発想にたどり着けなければ、事件解明は無理だったのでどのみち無理だったように思います。

でも、8月の事件のあと一人は槍中ではなさそう(深月が槍中に相談することに同意していたので)、さらに第3の事件は槍中が絡んでいそうというところをより深く考察できればもっと深いレベルまで考察を進められていたかもしれません。

まだまだ自分の推理力のレベルの低さを感じます。

本ブログを通じて、様々なミステリの考察を綴っていく中で少しでもレベルアップできるように精進していきたいと思います。